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【母娘で闘う〈1〉-娘の病名、メモで告知-】患者を生きる

1_pic「胃がんです。急いでください。時間がありません」
99年8月、松山市の病院。医師からこっそり渡されたメモをトイレで開いて、安岡佑莉子さん(57)は震えと涙が止まらなかった。体の不調を訴えて受診した22歳の長女・中島英子さんの、本当の病院だった。
英子さんは化粧品会社に勤め、高松で一人暮らしをしていた。2週間ほど前、よさこい祭りに合わせて、高知市に住む安岡佑莉子さんのもとに帰省した。顔色 が悪く、やせた感じが、どうにも気になった。近くの診療所では腸炎と言われたという。「大きな病院に行ったほうがいいよ。絶対に変よ」と念を押した。
やがて、高松に戻った英子さんから電話があった。「病院に行ったら、胃潰瘍で手術することになった。お母さんに来てもらってと先生が言うんだけど、来られる?」
胃潰瘍なら薬で治るはず。まさか……。佑莉子さんに疑念がわいた。もしもがんだったら、幼なじみが勤務医をしている地元の高知医大(現高知大)病院で治療を受けさせようと心に決めた。
翌日。高松の病院で、英子さんと一緒に説明を聞いた。医師は病名をあいまいにして話しながら、佑莉子さんに目配せをしてみせる。「手術は高知で受けます」と言うと、快諾された。検査データを受け取って席を立った時、走り書きのメモを手渡された。
佑莉子さんは、高知大学で主治医となった松浦喜美夫医師から、改めて英子さんの胃がんについて説明を受けた。
かなり進行している可能性が高く、抗がん剤の5FUとシスプラチンで小さくしてから手術で切除し、根治を目指す。胃がんでは術前の抗がん剤は治療は効果が立証されていないが、松浦医師らは数例手がけ、手応えを感じていた。
説明を受けた日の夕方、佑莉子さんは「初期のがんで、切れば治る。がんばって治そう」と切り出した。英子さんは驚いた様子をみせながらも「わかった」と答えた。
がんがかなり進行しているらしいことだけは、どうしても言えなかった。

写真解説:安岡佑莉子さん(左)のブログをパソコンで見る英子さん=高知市の安岡さん方で