0年11月。高知医大(現高知大)病院で抗がん剤治療を初めて1年余、4クール目の治療に入って1ヶ月がたっていた。吐き気やだるさには慣れてきた英子さんの体中に、かゆみやほてりが出た。呼吸も苦しい。これまでにない副作用と考えられた。
「もう抗がん剤はやめましょう」と主治医の松浦喜美夫医師は言った。だが、母の安岡佑莉子さんはためらった。
使っていたのは、5FUとシプランチという抗がん剤だった。呼吸の苦しさは、シスプランチの副作用ではないのか。5FUをやめてしまったら、5FUの効 果を高めた新しい飲み薬TS1も使えなくなる。そうなると、がんが再発したときに戦う手段がなくなってしまう。
佑莉子さんは「シスプラインチだけやめて、5FUは続けてほしい」と頼んだ。
リスクはある。だが、できるだけ患者側の意見を尊重したと松浦医師は考えた。英子さんを診察室に、呼吸困難に備えてステロイド系の注射も用意したうえで、5FUだけ点滴を続けた。新しい副作用はなかった。
点滴による抗がん剤治療は00年いっぱいで終了。01年からは、UFTという飲み薬の抗がん剤に切り替えた。回力は次第に回復し、再発の不安も少しずつ薄らいでいった。
手術から約2年後のある日、英子さんは体調がさえないと、地元の産婦人科で女性ホルモンを注射を受けた。
それを知った佑莉子さんは、あわててやめるように説得した。安定している状態に、悪影響が出ることが心配だった。
そして、初めて英子さんに伝えた。「実はがんが1年以内に再発する可能性は80%だった。やっとここまできたのだから、大事にしてほしい」再発率80%。「その重みを今まで抱えていてくれんだ」。英子さんに母へ感謝がわき上がった。
がんは、治療後5年後にあたる04年9月21日、英子さんは発病前から交際していた昌宏さんと婚約。その1年後に結婚し、新たな生活を始めた。